白州と余市は、どちらも初留を直火で焚いている——「森と海」の対比では見えない、日本の二大シングルモルトの分かれ道
森の白州と海の余市。この対比は有名だが、設備表を並べると別の姿が見えてくる。どちらも初留は直火。分かれ道は蒸溜器・発酵槽・冷却・麦芽の四つで、要は「幅をどこで作るか」の置き場所が違った。
南アルプスの森に建つ白州と、日本海に面した港町に建つ余市。この二つはたいてい「森と海」「軽やかと重厚」という対で語られます。間違ってはいません。ただそれは立地と味わいの話であって、造りの話ではありません。
二つの蒸溜所の設備を並べてみると、その対比では説明のつかないものが次々に出てきます。しかも整理していくと、白州と余市の分かれ道は「軽いか重いか」ではなく、幅をどこで作っているかというところにあることが見えてきます。
この記事では、意外な共通点から入り、蒸溜器・発酵槽・冷却・麦芽という四つの分かれ道をたどって、最後に「どちらを選ぶか」まで整理します。
まず、どちらも初留釜を直火で焚いている
いまの世界のモルト蒸溜所で主流なのは、釜の中に通したパイプへ蒸気を巡らせる間接加熱です。温度を細かく管理でき、釜を焦がす心配も少ない。
ところが白州と余市は、どちらもその主流から外れています。余市は創業以来、初留釜を石炭の直火で焚き続けています。いまも人の手で石炭をくべる方式で、これは世界で余市だけとされる希少なものです。
そして白州も、初留釜をガスの直火で焚いています。「森の蒸溜所」「爽やかなハイボール」という印象からは意外ですが、ピートを強く焚いた限定品の説明でも、つくり手は「直火蒸溜釜でていねいに蒸溜」と書いています。
炎で直接あぶられた釜の底は、もろみの成分が焦げるほどの高温になります。そこで起きる反応が香ばしさとコクを生む仕組みは、なぜ直火焚きの蒸留所のウイスキーは香ばしく重厚になるのかでくわしく扱いました。
つまり日本を代表する二つのシングルモルトは、最初の蒸溜において同じ「炎の側」に立っているわけです。違うのは燃料と、その先の設計になります。
分かれ道① 蒸溜器——6基で揃えるか、16基で混ぜるか
ここから道が分かれます。
余市のポットスチルは6基(初留4基・再留2基)。形はすべてストレート型で揃っています。ずんぐりした胴から首がまっすぐ立ち上がる形で、蒸気が途中で冷えて液体に戻り釜へ落ちる量(還流)が少ない。重い成分も上まで昇り、そのまま酒になります。
いっぽう白州は16基(初留8基・再留8基)。しかも形が揃っていません。初留はストレートヘッドが5基とランタンヘッドが3基、再留はストレートヘッドが6基とランタンヘッドが2基という混成です。ランタンヘッドは胴の上がくびれて広がる形で、還流が増え、軽い成分だけが選ばれて上がっていきます。
同じ蒸溜所の中に、重い酒を造る釜と軽い酒を造る釜が並んでいる。これが「多彩な原酒のつくり分け」と呼ばれるものの実体です。スチルの形と酒質の関係はなぜポットスチルの形ひとつで酒質が変わるのかに整理しています。
ここで先に断っておくと、余市の原酒もブレンデッドの材料になります。ブラックニッカやスーパーニッカ、竹鶴といった銘柄は、いずれも余市の原酒に支えられています。つまり「白州はブレンド用に幅が要る、余市は要らない」という話ではない。違うのは、その幅をどこで作るかです。白州は釜の形そのものを混ぜて幅を作り、余市は6基を同じ形で揃えている。
分かれ道② 発酵槽——伝統と現代が入れ替わっている
ここがいちばん面白いところです。
ウイスキーの世界では、木の発酵槽が「伝統的」、ステンレスが「現代的」とされます。木桶には乳酸菌などの微生物が住み着き、発酵の後半に酸や複雑な香りを足す。ステンレスは洗いやすく、狙わない菌の影響を受けにくい。
そのうえで、二つの蒸溜所はこうなっています。
- 白州の発酵槽は、ベイマツ(ダグラスファー)の木桶が18基
- 余市の発酵槽は、ステンレスが10基
石炭を人の手でくべる余市が、発酵ではステンレスを選んでいる。16基のスチルを使い分ける白州が、発酵では木桶を守っている。「古い蒸溜所ほど何もかも伝統的」ではないわけです。どちらも、自分たちの酒に必要な工程だけを選んで昔のまま残しています。
木桶とステンレスで何が変わるのかは、なぜ発酵槽は「木製」と「ステンレス」で分かれるのかにまとめました。
分かれ道③ 冷却——ワームタブが1基だけの白州
蒸溜器から出た蒸気を液体に戻す装置にも、差が出ます。
余市の冷却はワームタブが基本です。大きな水槽に銅の蛇管を沈めた古い方式で、蒸気が銅と触れる面積が小さいぶん、硫黄っぽさや重さが残りやすい。骨太な酒質を狙う蒸溜所が好んで残す装置です。
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