世界でいちばん売れているウイスキーの名前を、私たちは知らない——ジョニーウォーカーの上にいる3本と、「ケース」という単位
世界の販売数量ランキングを開くと、上位はインドの銘柄で埋まっている。ジョニーウォーカーの上に3本、同じ数字に1本。角瓶とトリスはどこにいるのか。2025年の実績から、ウイスキーの世界地図を数字で読み直す。
世界でいちばん売れているウイスキーは何か。
ジョニーウォーカー、と答える人が多いはずだ。ジャックダニエル、あるいはジムビームを挙げる人もいるだろう。バーの棚でも、スーパーの酒売り場でも、いちばん目立つ場所を占めている銘柄たちである。
ところが業界の販売数量ランキングを開くと、これらの名前が現れる前に、日本ではまず見かけない銘柄がいくつも並んでいる。
この記事では、2025年の実績で集計された二つの業界ランキングを頼りに、ウイスキーの世界地図を数字から読み直してみたい。読み終えるころには、「よく売れている」と「よく知られている」がまったく別のことだと分かるはずだ。
まず、「ケース」という単位を押さえておく
酒の販売量は、本数ではなく「ケース」で数える。業界で使われるのは9リットルケース——中身が9リットル分で1ケース、という単位だ。750mlのボトルなら12本、日本で標準的な700mlなら約12.9本にあたる。
英国の業界誌ドリンクス・インターナショナルが毎年出している「ミリオネアズ・クラブ」は、この9リットルケースで年間100万ケースを超えたブランドだけを集めた一覧である。2026年版は、2025年の1年間の実績にもとづく。
100万ケースは、900万リットル。700ml瓶に詰め直せば、およそ1,286万本になる。一覧に名前を載せるための、入口の数字である。
上位を占めているのは、インドの銘柄だ
ミリオネアズ・クラブ2026のインディアンウイスキー部門は、こうなっている。
- ロイヤルスタッグ 3,260万ケース(前年比+5.2%)
- マクドウェルズNo.1 3,190万ケース(小幅減)
- オフィサーズチョイス 2,070万ケース(-2.8%)
- インペリアルブルー 2,030万ケース(-11.4%)
そして同じランキングのスコッチ部門で首位に立つジョニーウォーカーは、2,030万ケース。前年の2,160万ケースから落としての数字である。
同誌はジョニーウォーカーを「スコッチとしては断然の首位であり、1,000万ケースの壁を破った唯一のブランド」と書く。同じ一覧のインディアンウイスキー部門へ目を移すと、上位4銘柄のうち3つがその数字を上回っている。4番目のインペリアルブルーとは、ちょうど並ぶ位置だ。
念のため書いておくと、これは媒体をまたいだ比較ではない。インド勢もジョニーウォーカーも、同じドリンクス・インターナショナルの同じ2026年版の数字である。だから並べて読める。
ロイヤルスタッグの3,260万ケースを700ml瓶に直すと、およそ4億2,000万本。1年で、それだけの本数が売れている。
その下も厚い。ロイヤルチャレンジが16.5%増の1,060万ケース、アイコニックホワイト(Iconiq White)にいたっては450万ケースから970万ケースへと倍以上に伸びた。サントリーがインド市場向けに手がけるオークスミス——スコッチのモルト原酒、アメリカのバーボン、インド産のグレーンスピリッツを組み合わせたブレンドだ——も、44.6%増の150万ケースでこの一覧に名を連ねている。
なぜ、私たちはその名前を知らないのか
理由は単純で、これらの銘柄の多くが海の向こうでは「ウイスキー」として売れないからである。
インドで「ウイスキー」として売られる酒には、糖蜜(砂糖精製の副産物)を発酵・蒸留した中性アルコールをベースにしたものが多い。原料に穀物を求めるEU・英国・米国の定義では、そもそもウイスキーの棚に置けない。
ただし銘柄によって原料は異なり、首位のロイヤルスタッグは、輸入したスコッチのモルト原酒とインド産グレーンスピリッツのブレンドを謳っている。先に挙げたオークスミスも同様だ。「インドのウイスキーはすべて糖蜜から」ではない。もっとも、原料が穀物であっても、EUの規則はウイスキーに3年以上の樽熟成と94.8%未満での蒸留を求める。グレーンベースを名乗れば自動的に条件を満たす、という話でもない。
この定義のねじれ全体についてはなぜ世界一ウイスキーを飲む国インドの「ウイスキー」は、国際基準ではウイスキーではないのかに詳しく書いた。
そして、これらの銘柄が属するのが IMFL(Indian Made Foreign Liquor=インド製外国酒)という区分である。植民地期の酒税制度が「外国酒」と「地酒」を分けた名残で、独立後も州ごとの酒税制度がその分類を引き継いだ。国際市場の外側にある巨大な国内市場が、独自の呼び名ごとそこにある——順位表の上のほうは、そういう世界だ。
つまり、世界に広がったから大きいのではなく、大きな国の内側で強いから大きい。同じ「世界一」でも、ジョニーウォーカーの世界一とは意味が違う。
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