なぜボトルの名前は、造った蒸溜所の名前と違うのか——アンノックはノックデューで生まれ、キルケランはグレンガイルから出てくる
棚に並ぶボトル名と、それを造った蒸溜所の名前は、しばしば一致しない。商標を他人に握られていた、似た銘柄が先にいた、中身が単一蒸溜所ではない——キルケラン、アンノック、アマハガンなどの実例で、名前がズレる5つの理由をたどる。
バーの棚で、あるいは酒屋の陳列で、見たことのない名前のボトルに出会うことがある。産地はスコットランド、堂々たるシングルモルト。ところが蒸溜所の一覧をどれだけ探しても、その名前は出てこない。
偽物でも、無名の新興蒸溜所でもない。中身は、多くの人が名前を知っている蒸溜所のウイスキーだったりする。同じことは、日本のボトルでも起きている。
ウイスキーの世界では、ボトルに書かれた名前と、それを造った蒸溜所の名前が一致しないことが、わりと普通に起きる。しかもその理由は、味とほとんど関係がない。商標、紛らわしさ、造り分け、中身の出自、そして棚に出せない事情——名前のズレは、たいてい商売の都合から生まれている。
代表的な5つのパターンを、実際に買えるボトルで見ていきたい。
1. 自分の名前が、他人のものになっていた
キャンベルタウンのグレンガイル蒸溜所は、1925年に沈黙したあと長く眠っていた。これを2000年、スプリングバンクを持つJ&Aミッチェル社が敷地ごと買い取り、2004年に約80年ぶりの蒸溜を再開する。
もっとも、手に入ったのは建物の外殻だけだった。ポットスチルは、解体されたベン・ウィヴィス蒸溜所から買い取って据え直したもの。そして名前に至っては、シングルモルトの銘柄として名乗ることすらできなかった。
「グレンガイル」の名は1940年代初め、ブレンダーのブロック兄弟が蒸溜所ごと取得し、その後グレンスコシアの所有者側へ引き継がれていた。いまもロッホローモンド・ディスティラーズのもとにあり、まったく別のブレンデッドの銘柄として押さえられている。建物の権利と名前の権利が、別々の道を歩いてしまったわけだ。
そこで新しいシングルモルトは、この街の古い呼び名「キルケラン」を名乗ることになった。2007年の初リリース以来、キルケランはグレンガイル蒸溜所が世に出す唯一の名前として定着している。かつて30以上の蒸溜所がひしめいた街の歴史は、キャンベルタウンはなぜ衰退し、復活したのかで詳しく書いた。
2. 似た名前が、すでに棚にあった
ハイランド北東部のノックデュー蒸溜所は、1983年に需要減で閉鎖された。1988年にインバーハウス社が買収し、翌1989年に生産が再開する。
再出発にあたって引っかかったのが、名前だった。スペイサイドには「ノッカンドゥ(Knockando)」という、すでに広く売られているシングルモルトがある。ノックデュー(Knockdhu)とノッカンドゥ。並べて書けば別物だが、棚の前に立った客が取り違えないとは限らない。
そこで1993年、シングルモルトのブランド名はアンノック(anCnoc)へ切り替えられた。蒸溜所の看板はノックデューのまま、ボトルの名前だけが変わった格好である。アンノックは、蒸溜所のそばに横たわる丘にちなみ、ゲール語で「丘」を意味する。スコッチの銘柄名にゲール語が多い背景は、にまとめてある。
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