なぜ日本の蒸溜所は、ライバルと原酒を交換してこなかったのか——一社で幅を作った国と、2015年に秩父とマルスを行き来したニューポット
スコッチでは当たり前の「原酒の交換」が、日本には根づかなかった。だから幅は一つの敷地の中で作られた。その前提が2015年、秩父とマルスのあいだで熟成前のまま入れ替わった原酒から動きはじめる。
スコットランドのウイスキー会社は、ライバルに自社の原酒を渡す。現金の動かない樽の交換すら、業界の慣習として残っている。ブレンデッドを一本仕上げるのに、自社の蒸溜所だけでは色が足りないからだ(→なぜスコッチの蒸溜所は、ライバル会社に自分の原酒を渡すのか)。
日本には、その慣習が根づかなかった。
渡さない。だから足りない色は、自分の敷地の中で作る。日本のウイスキーが「一つの蒸溜所がいくつもの顔を持つ」造りになった背景には、この事情があると説明されることが多い。
そして2015年の春、その前提が小さな蒸溜所の側から動きはじめる。埼玉と長野のあいだで、まだ樽に入れる前のスピリッツが入れ替わったのだ。
「同業とは取引しない」という前提
英語圏のウイスキー解説では、日本の産業構造はしばしばこう説明される。蒸溜所どうしで原酒を分け合う歴史がなかったため、日本のウイスキー会社は蒸溜所とブレンドのブランドを両方とも自分で抱える垂直統合型になった。必要な酒質の幅を、競合と取引せずに自前で用意しなければならなかったからだ、と。
サントリーもニッカも、互いにモルト原酒を融通し合ってはこなかったとされる。スコットランドなら、ブレンダーはよそが造った何十種類もの原酒から選んで一本を組み立てられる。日本の二社には、その選択肢がほとんどなかった(→スコッチとジャパニーズウイスキーは何が違うのか)。
ただし「外から一切買わなかった」わけではない点は、正確に言い添えておきたい。日本のメーカーは長らく海外からバルクのウイスキーを輸入し、ブレンドに使ってきた。業界団体が「ジャパニーズウイスキー」の表示基準をわざわざ定めたのも、その裏返しである(→本物のジャパニーズウイスキーの見分け方)。
避けられてきたのは海外からの調達ではなく、国内の同業と原酒を融通し合うことだった。
幅は、一つの敷地の中で作られた
足りない色を自前で用意する——これを設備で解くと、一つの蒸溜所がやたらと多彩になる。
山崎蒸溜所は、形や大きさの違うポットスチルを並べ、発酵や樽の組み合わせを変えることで、性格の違う原酒を仕込み分ける。樽もホワイトオーク、シェリーを詰めていたスパニッシュオーク、そしてミズナラと使い分ける。凝り性だから、というだけの話ではないだろう。よそから買わない前提で「幅」を用意するなら、自分の敷地に揃えるほかない。
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