スーパーで並ぶ二大バーボンが、この「残りの49%」でどう分かれるのかはメーカーズマーク vs ジムビームに書きました。
いちばん大きな差は、熟成です。
スコッチウイスキー規則は、3年以上の熟成を要求します。しかも「スコットランドでのみ」熟成すること、と場所まで指定されています(樽ごと国外へ持ち出せない事情はなぜスコッチは、スコットランドの外で熟成してはいけないのかに譲ります)。
一方、バーボンの条文には——熟成期間が一行も書かれていません。
書き落としではありません。同じ表の「ウイスキー」の行には、保管の欄にわざわざ「オーク樽、最低期間の要件なし」と明記されています。バーボンの行も同様に、樽の種類と樽入れ度数だけを書いて、時間には触れていない。理屈のうえでは、樽をくぐった翌日のものでもバーボンです。
ただし、まったくの無条件ではありません。「ウイスキー」という大枠の定義そのものが「オーク樽で保管されたもの」と書いているからです。だから、樽を一度も通らない蒸溜したてのスピリッツは、条文上のウイスキーには入りません(唯一の例外はコーンウイスキーで、こちらは樽に入れなくてもよいと括弧書きされています)。樽に入る前の原酒が「ホワイトドッグ」などの名で、ウイスキーとは別の顔をして売られるのはそのためです。
では、若いバーボンが年数を隠して並ぶのかというと、そうはならない仕組みがあります。同じ連邦規則の5.74条が、4年未満のウイスキーには熟成年数の表示を義務づけているのです。
これは、棚の前でそのまま使える知識です。アメリカのウイスキーのラベルに年数が書かれていなければ、それは4年以上寝ているということ。書いていないから若い、ではなく、その逆です。
例外として「ボトルド・イン・ボンド」表示のものが除かれていますが、この表示自体が4年以上の貯蔵を条件にしているので、結論は変わりません。ひとつだけ注意すると、これはアメリカ国内のラベル規制です。日本の棚に並ぶボトルの表示は日本の制度に従うので、輸入元が貼り替えた裏ラベルまで同じ保証をしてくれるわけではありません。
なお「ストレート・バーボン」と名乗る場合は、条文が2年以上の熟成を要求します。「ストレート」の一語が何を保証しているかはバーボンのラベルの言葉は何を保証しているのかにまとめました。年数表示が「いちばん若い一滴」を指すのは、スコッチもバーボンも同じです(なぜ「12年」ウイスキーには、12年より古い原酒も混ざっているのか)。
樽の条文は、縛っている方向がまるで違います。
- スコッチ:容量700リットル以下のオーク樽。何度使った樽かは問わない
- バーボン:内側を焦がした新品のオーク樽。容量の上限は書かれていない
スコッチが指定するのは材と大きさ、バーボンが指定するのは新しさと焦がし。重なっているのは「オークであること」だけです。バーボンに容量の定めがないのは書き漏らしではないようで、2025年に加わったアメリカン・シングルモルトの行には、はっきり「700リットル上限」と書き込まれました。スコッチと同じ数字を、アメリカ側があとから、しかもその一類型にだけ書き足した。 書くときは書くのです。バーボンの行には、書かれていない。
バーボンの樽が一度きりで役目を終え、その中古樽がスコットランドへ渡っている——という有名な連鎖は、なぜバーボンは「新品の樽」しか使えないのかとバーボン樽熟成に譲ります。ここで見ておきたいのは、その連鎖が条文の書きぶりの非対称から生まれているという点です。片方が「新品しか使うな」と書き、もう片方が「何度目かは問わない」と書いた。だから樽が一方向に流れます。
新品の樽が原酒に何をするのかはバージンオーク(新樽)とチャーとトーストに、樽の大きさが効く仕組みは樽のサイズに整理しています。
ちなみにスコッチ側が近年ゆるめてきたのは、「その樽に以前何が入っていたか」の範囲でした(なぜスコッチは、テキーラの樽で仕上げた一本が棚に並ぶのに、ジンの樽ではだめなのか)。バーボンには、そもそも「以前」がありません。
意外に知られていないのが、ここです。
バーボンの条文は、樽に入れるときの度数まで定めています。125プルーフ(62.5%)以下。これを超えて詰めたら、バーボンを名乗れません。
スコッチウイスキー規則には、これに当たる条文がありません。にもかかわらず、スコットランドの蒸溜所はおおむね**63.5%**で樽詰めします。法律ではなく、業界が長い時間をかけて選び取った一点です(その理由はなぜスコッチは63.5%で樽に詰められるのかに書きました)。
62.5%と63.5%。ほとんど同じ数字が、片方では義務、もう片方では慣行として存在している。似た結論に別の経路でたどり着いた例として、これはなかなか面白い一致です。
樽に入れないまま瓶に詰めた原酒にも、同じ数字が顔を出します。この一本は125プルーフ、つまり62.5%。条文が樽詰めに定めた上限と、ちょうど同じ数字です(こちらはバーボンのマッシュではなく、ライのマッシュから採った一本)。
そして、いちばん通説がひっくり返るのがこの項目です。
スコッチに加えてよいものは、水とプレーンカラメル色素だけ。裏を返せば、色の調整は認められているということです。もっとも規則は同時に、色・香り・味が原料と製法に由来するものであり続けることも求めているので、カラメルで足せるのは色だけ、という建て付けになっています(なぜスコッチにはカラメル色素が使われるのか)。
アメリカ側の表には、「無害な着色料・香味料・ブレンド用材料を使ってよいか」という欄があります。そして、コーン51%以上・ライ麦51%以上……と穀物名で並ぶ一行の欄には、こう書かれています。
バーボンウイスキーを除き、可
同じ行に同居しているライウイスキーにもウィートウイスキーにも許されている一手が、バーボンにだけ、名指しで許されていない。「バーボンは着色されている、スコッチは自然のまま」という印象は、条文の上では逆向きです。
正確を期すと、「ストレート」を名乗る類型(ストレート・バーボンもストレート・ライも)は、そろって添加不可です。つまりライウイスキーは名乗り方しだいで足せる側にも足せない側にも回るのに対し、バーボンはどちらの名乗りでも一貫して足せない側にいる。ここがこの一語の重さです。
無着色という選択が味の受け取られ方に何をするかは無着色(カラメル色素不使用)に整理しました。
最後に、土地です。
スコッチウイスキー規則は、しつこいほど「その蒸溜所で」と繰り返します。マッシュにするのも、糖化させるのも、酵母を加えて発酵させるのも、すべて同じ蒸溜所の中で行うこと。そのうえで、熟成はスコットランドで3年以上。
バーボンの条文には、州の指定がありません。「バーボン」の語は「アメリカ合衆国内で蒸溜・熟成されたものでなければ使えない」と定められていますが、その内側は自由です。ケンタッキーでなくても、テキサスでもニューヨークでもバーボンになります。
ただし、ラベルに土地の名を書くなら話は別で、条文は「ニューヨーク・バーボン・ウイスキー」を例に挙げ、その州で蒸溜も熟成もしていなければ名乗れないとしています。ケンタッキーがバーボンの本場であることと、ケンタッキーでなければバーボンになれないことは、別のことです(本場になった経緯はなぜバーボンはケンタッキーで生まれたのかへ)。
スコッチは「どの建物で」まで縛り、バーボンは「どの国か」しか縛らない。 場所への神経の使い方が、そもそも違います。なお、大麦がスコットランド産でなくてよいことについてはなぜ「スコットランドの酒」なのに、大麦はスコットランド産でなくてもいいのかに書きました。条文が縛るのは造る場所であって、畑の場所ではありません。
- 数字がそのまま重なるのは瓶詰めの下限(40%以上)だけ。蒸溜度数の上限は、方向は同じでも水準がバーボンのほうが低い(80%以下)
- 熟成期間を義務づけているのはスコッチ(3年以上・スコットランド国内)。バーボンの条文に期間の定めはない。ただし4年未満は年数表示が義務なので、年数が書かれていないアメリカのウイスキーのラベルは4年以上
- 樽は、スコッチが「オーク・700リットル以下」、バーボンが「新品の焦がしオーク」。指定している方向が違い、その非対称が中古樽の流れを生んだ
- 樽入れ度数は、バーボンが62.5%以下という法律、スコッチが63.5%という慣行
- 添加物は、スコッチが水とプレーンカラメル色素まで可。バーボンは穀物名で並ぶ行のなかで唯一名指しで除外され、ストレートを名乗っても足せない
- 場所は、スコッチが蒸溜所単位、バーボンは合衆国内であればよい(州名を名乗る場合を除く)
味の違いを説明する言葉はいくらでもありますが、その手前で二つを分けているのは、こうした地味な一行の集まりです。棚の前でラベルを読むとき、「新品」「ストレート」「年数の有無」がそれぞれ何を保証しているのかが分かっていると、選ぶ手がすこし速くなります。
味わいと選び方の全体像はスコッチとバーボンは何が違うのかへ。アメリカ側の分類をまとめて眺めるならアメリカンウイスキーの種類と違いを、同じ手つきでスコッチとアイリッシュを読み比べたものはスコッチとアイリッシュは何が違うのかをどうぞ。